創造性を発揮するためにはどのように日々を送るべきか(メイソン・カリー「天才たちの日課」)

何で発見したのかは忘れたが、こんな本を読んだ。

僕自身が最近「習慣」というものを意識的にデザインしていることもあり、諸々参考になる本だった。 同じような話が続くし、知らない外国人が多いので、後半飽きてしまったが、それでも全体としてみれば面白かった。 (日本人では唯一村上春樹が登場する) 本来一気読みするのではなく、気が向いたときにテキトーなページ開いて読む、ぐらいがちょうどいい読み方なのだろう。 一人ひとりのエピソードは短く簡潔にまとまっている。 生活を単純化しすぎているきらいはあるが、読んでる側としてはそのぐらいの方が参考になる。

ちなみにタイトルの「天才」というのは邦題が盛っていて、原題は"Daily Rituals: How Artists Work"なので、 画家・音楽家・作家・映画監督などクリエィティブ職についている人々の何気ない日常習慣を書くのがテーマ。 僕自身の最近の働き方は、「ワークスタイルを変えた話」でまとめてみたが、これもまた2019年末の状況なので、変わることもあるだろう。

自分が好きなアーティストの習慣を真似てみるもよし、 読んでみてこれはいい習慣だなと思ったら真似てみるもよし、 色んな使い方ができる本だと思う。

以下、読書メモをまとめる。

共通していること

取り上げられている人物は多種多様なので、一概に「成功したアーティストは◯◯をしていた!」みたいなことはない。 強いて言うなら、自分にあった習慣を長年の生活で見つけ出した、という点は共通しているだろうか。 いや、中には結局生活に不満を抱き続けたタイプの人物も紹介されているから、それすらも違うか。

カフカが一九一二年に恋人のフェリーツェ・バウアーに送った手紙の一文をよく思い出した。 住まいの狭苦しさと、生活のための仕事に時間をとられることにいらだち、カフカはこう書いている。 「時間は足らず、体力は限られ、職場はぞっとするほど不快で、アパートはうるさい。 快適でまともな暮らしが望めないなら、うまくごまかす技でも駆使して、なんとか切り抜けるしかない」

どちらかというと成功して快適な暮らしができるようになった末に、ライフスタイルを作り上げているエピソードが多い気がするので、 そこまで金持ちではない我々が同じことをするのは難しいような気もするが、しかし何らかのヒントにはなるだろう。 全体的に共通していると感じたのは、下記だ。

  • 散歩が多い
  • 朝型/夜型は人によるが、自分の一番いい時間は把握している
  • ロングスリーパー/ショートスリーパーも個人差が大きい
  • 電話して一方的に話した奴が多い
  • 90年代前半の作家や芸術家が多いので、今の時代と少し違う気がする
  • 都会暮らしは誘惑が多い
  • 酒・タバコ・コーヒーとの付き合い方にこだわりがある
  • 創造的な仕事ができる時間

    これもまた「人による」なのだが、ほとんどの人間にとって、創造的な仕事ができる時間というのは1日8時間もない。 2〜3時間ベストなものを少しだけ創ったら、あとはもう遊んで一日終わり、という生活パターンは多い。 逆に、過集中型の人間で、1〜2ヶ月間集中して作業して、 作品が完成したら数ヶ月全く作業しなくなるタイプ紹介されている。 過集中型は、「頭の中のイメージを早く形にしないと忘れてしまう」という恐怖心がある。

    万人にとってどちらがいい、ということはなくて、自分にとってどちらがいいか選ぶ、という話なのだろう。

    印象に残ったエピソード

    2つほど印象に残ったエピソードを紹介しよう。

    バックミンスター・フラー

    一九三二年から一九三三年に行なった一連の実験によって 、フラ ーはこう確信する 。 疲れを感じたり眠くなったりするのは 、体や頭脳を酷使しすぎた証拠であり 、その時点で休憩をとって 、疲労から回復しなければならない 。 フラ ーはそうなる前に 、意識して睡眠をとるようにした 。 疲れ切ってしまう前に眠れば 、疲労からの回復は必要なくなる 。 睡眠は単に休憩のためで 、短くてすむようになるかもしれない 。 一定のパタ ーンで睡眠を繰り返せば 、疲れるということも一切なくなるかもしれない 。 多くの試行を経て 、フラ ーは自分に合ったスケジュ ールを見出した 。 六時間仕事するたびに 、約三十分仮眠するのだ 。 もしフラ ーが 「集中力の崩壊 」と呼ぶ兆候が起きたら 、六時間たっていなくても寝る 。 それでうまくいった (少なくともフラ ーの場合は ) 。 ただ 、私が見たかぎりでは 、フラ ーより若い同僚や学生の多くは 、彼のようにうまくやることはできなかった 。 だがフラ ーはたしかに疲れることがないようだった 。 彼の講義は十時間以上続くこともあったし 、つねにメモをとったり 、本を読んだり 、模型を作ったり 、あたりをうろうろ歩いたりしていた 。 そのように働きつづける能力は 、七十代になっても衰えることはなかった 。
    ボ ールドウィンはこうも書いている 。 「フラ ーは三十秒で眠りに落ちてしまうので 、観察している者はびっくりした 。 まるで頭のなかのスイッチを切ったように 、いきなり寝入ってしまうので 、発作かなにか起こしたように見えるのだ 」 。 しかし 、 〈高頻度睡眠 〉の実験はうまくいったものの 、フラ ーはそれをいつまでも守ることはできなかった 。 変な時間帯に眠ることに妻から文句をつけられ 、普通のスケジュ ールに戻ることにしたのだ 。 それでも日中は必要に応じて仮眠をとった。

    「偉大な芸術家と言っても普段の日常は案外規則正しく地道なことしているんだな」という印象が多い本書の中で、 尖った生活習慣を送っていたので、印象に残った。 確かに一度は考えたことがあるが、実行しようと思ったことはなかった。 真似しようとは思わない。

    スティーブン・ジェイ・グールド

    その並はずれた勤勉さはどこからくるのか、と問われたとき、結局は気質の問題だろう、とグールドは答えている。 「発生と遺伝と好ましい環境という三つのラッキーな偶然が、奇妙で複雑な形で重なったおかげだよ」 まず肉体的に高いレベルのエネルギーをもっていることが必要で、それはみんなに備わっているわけではない。 私は体が頑強というわけではないが、知的なエネルギーは非常に高いし、いつもそれを維持している。 だから一日じゅう働けるんだ。席を立ったり、水を飲んだり、三十分テレビをみたりする必要がない。 いったんやりはじめたら、文字どおり、一日じゅうすわりっぱなしで仕事ができる。 それはだれもができることではないし、倫理観とかも関係ない。 それを倫理的な問題だと考える人もいるけど、そうじゃない。 それは肉体的なタイプと気質とエネルギーの問題だ。 それは人それぞれで、それがどうやって決まるのかは、私にはわからない。

    アメリカの生物学者の言葉。 「一日じゅうすわりっぱなしで仕事ができる」のが、「だれもができることではない」というのは、 今一日座りっぱなしで仕事している僕も思うところではある。 肉体労働とはまた違う大変さがある。

    まとめ

    有名画家や有名作曲家も、1日1日という単位で切り出してみると、 案外地味な生活を送っていて、日々天才的なひらめきが降りてきているわけではなく、 むしろ生活の困難や、日々の退屈さと戦いながら、地道に創作活動を続けて、 最終的に大きな成果になる、だから日々の習慣を大事にしようね、というのが本書から読み取れるテーマだと思う。

    よき習慣で、よき生活を!

    (了)