初等ラテン語文法

根拠

以下の文章は、M・アモロス著「ラテン語の学び方」に準拠する。

ラテン語の語順

ラテン語に決まった語順はほとんどない。否定のnonは否定する語の前につける等、極めて稀である。実際のラテン語の使用者は、音の響きのよさに従って語順を決めていたらしいので、 現代のラテン語の学習者が読むと、極めて意味がとりづらい場面が多々ある。

名詞の性数格

ラテン語の名詞には、性、数、格がある。

男性名詞、女性名詞

単数、複数

主格、属格、与格、対格、奪格 (解説) ラテン語は日本語の「てにをは」にあたるものがなく、全て格変化で示す。それぞれの格の、大まかな意味を「人間」を意味する"homo"という名詞で示す。

  • 主格 homo 人間は
  • 属格 hominis 人間の
  • 与格 homini 人間のため
  • 対格 hominem 人間を
  • 奪格 homine 人間によって
  • 名詞の変化形

    名詞は、その変化形の特徴から、五つに分類される。

  • 第1変化 femina、agricola等(主格の語尾が-aの女性名詞がほとんど)
  • 第2変化 amicus、vir等(主格の語尾が-usの男性名詞がほとんど)
  • 第3変化 homo、lex等
  • 第4変化 fructus、cornu等(数は少ない)
  • 第5変化 res、spesくらいしかない
  • 「ラテン語の文法」(wikipedia)に詳しい変化は載っているので参照せよ。要するに、一つの名詞は、単数の主格から奪格までの五つの格、複数の五つの格を持ち、計十個の変化形を持つ。 それは、例えばfeminaの属格と与格が、feminaeであるように、一部重複する場合も多い。

    形容詞の基本

    ラテン語の形容詞は、形容する名詞にあわせて、性数格を変化させなければならない。

    形容詞の変化形

    形容詞の変化形は、基本的には3つに大別される。

  • 1・2変化に基づく形容詞 bonus、pulcherなど
  • 第三変化に基づく形容詞その1(男性女性の単数主格と、中性のが異なるもの) suavis、acerなど
  • 第三変化に基づく形容詞その2(男性女性の単数主格と、中性のが同じもの) prudens、vetusなど
  • 形容詞の比較級最上級

    比較級 語尾を-ior、-iusにかえる。 longus→longior(男性女性)、longius(中性) felix→felicior(男性女性)、felicius(中性) 最上級 3パターンあり、普通は語尾をissimus、a、umにかえる。 ただし語尾がerでおわる形容詞は、errimusになる。 また、語尾がilis、eで終わる形容詞、facilisなどの6つの形容詞は、illimus、a、umをつける。 firmus→firmissimus(男性)、firmissima(女性)、firmissimum(中性) pulchel→pulcerrimus、pulcerrima、pulcerrimum facilis→facillimus、facillima、facillimum 特例 bonus、a、um→melior、melius(比較級)→optimus、a、um(最上級) のように、よく使われるbonus、malus、magnus、parvus、multiなどは特殊な活用をする。

    動詞の基本

    動詞には、人称変化がある。 つまり、 私がする動作(一人称単数) あなたがする動作(二人称単数) あの人がする動作(三人称単数) 我々がする動作(一人称複数) あなたたちがする動作(二人称複数) あの人たちがする動作(三人称複数) の六つの人称によって、語尾が変化する。 また、動詞の変化パターンは四種類に大別される。 (ただし第三変化の特殊形を一種類にするなら、五種類)

  • 第一変化の例(不定法の語尾が-are) amo(愛する) amas amat amamus amatis amant
  • 第二変化の例(-ere;エーレ。eの上にアクセントの記号が入る) moneo(忠告する) mones monet monemus monetis monent
  • 第三変化の例(-ere;エレ) lego(読む) legis legit legimus legitis legunt
  • 第三変化の特殊例(-ere) capio(熱望する) capis capit capimus capitis capiunt 不定法は第三変化と同じくcapereとなるが、人称変化は第四変化に従う。
  • 第四変化の例(-ire) audio(きく) audis audit audimus auditis audiunt
  • 受動態の人称変化

    ちなみにラテン語は日本語、英語に比べて、受動態の使用頻度が高い。

  • 第一変化 amor(愛される) amas amatur amamur amamini amantur
  • 第二変化 moneor moneris monetur monemur monemini monentur
  • 第三変化 legor legeris legitur legimur legimini leguntur
  • 第四変化 audior audiris auditur audimur audimini audiuntur
  • 不定法

    動詞を名詞化する時に、不定法を用いる。

  • 第一変化 amare(愛すること)
  • 第二変化 monere
  • 第三変化 legere
  • 第四変化 audire
  • 命令法

    命令方は必ず人称が二人称になる。

  • 第一変化 ama(あなたは愛しなさい) amate(あなた方は愛しなさい)
  • 第二変化 mone monete
  • 第三変化 lege legite
  • 第四変化 audi audite
  • 否定の命令(〜するな)

    否定の命令を表したい時は、nolo(欲しない)という動詞を命令形にして、 実際の動作の動詞は不定詞にする。 単数ならnoli、複数ならnoliteを用いる。 (例)Noli laborem fugere. 苦労を避けるな。 fugio(避ける)という動詞を不定法で使っている。

    分詞

    動詞を形容詞的に使いたい際は、分詞形を用いる。分詞形は形容詞と同じように、修飾する名詞に性数格を合わせる。そして、形容詞とは違って、目的語や補語をとることが可能で、時称や能動/受動の区別もある。時称と能動/受動の区別により、現在分詞、過去分詞、未来分詞、目的分詞を使い分ける。

    現在分詞

    現在分詞は能動かつ現在のことをあらわす。 amo→amans(愛している) moneo→monens lego→legens audio→audiensと変化させると、現在分詞の一人称単数形となる。 後の変化は、形容詞のsapiens等と同様。

    過去分詞

    過去分詞は受動かつ過去に完了したことをあらわす。 amo→目的分詞がamatum→amatus,a,um(愛された) moneo→monitum→monitus,a,um lego→lectum→lectus,a,um audio→auditum→auditus,a,um 過去分詞形の変化は、形容詞のbonus等と同様。

    未来分詞

    未来分詞は能動かつ未来のことをあらわす。 amo→amatum→amaturus,a,um(愛そうとする) moneo→monitum→moniturus,a,um lego→lectum→lecturus,a,um audio→auditum→auditurus,a,um これもbonus等と同様の変化。

    目的分詞

    第一種と第二種がある。 第一種は、venio(行く)などの動詞と一緒に使われ、「〜するため」という目的の意味を示す。 第二種は、形容詞と一緒に使われ、「〜するのに」という意味を示す。 第一種の目的分詞は動詞の主要部分なので、辞書に載っている。 第二種はその形から、最後のmをとる。amatum(第一種)→amatu(第二種) (例)Ego quotidie sero cubitum venio.(私は毎日遅く寝に行く) Multae res faciles sunt dictu,sed non factu.(大概のことは言うは易いが、行うは難し)

    奪格別句

    分詞の奪格形を使って、従属文を作るのが、奪格別句である。

    現在分詞を使う奪格別句

    従属文と主文の時制が同じ時は、現在分詞を使う。 従属文の主語も奪格にする。 また、主文と従属文の主語が同じ時は、奪格別句は使えない。 (例)Patre dormiente latro cubiculum intrat.(父が寝ている時、泥棒が部屋に入る)

    過去分詞使う

    従属文が過去、主文が現在の時は過去分詞を使う。 過去分詞は通常受動態を示すが、奪格別句の場合、能動態で考えた方がわかりいい。 (例)Etiam vulnere sanato,cicatrix manet.(傷が癒えても、傷跡が残る)

    名詞や形容詞を使う

    Me duce tutus es.(私が将軍なら、あなたは安全だ) Legibus salvis nihil de hac re agi potest.(法律がしっかりしてれば、このことについて何もできない)

    変位動詞

    意味が能動で、形が受動のものがある。 (例) imitor,morior等 なお変位動詞が受動態をとることはない。 特別な格を支配する変位動詞 奪格支配→utor,fruor,fungor等 与格支配→assentior,gratulor,auxilior等 属格支配→obiviscor,miereor,recordor等

    受動態の命令法(=変位動詞の命令法)

    受動形の命令法は、 単数に対してなら、不定法現在(例)amare 複数に対してなら、能動態の二人称複数(例)amamini

    非人称動詞

    主語をとらない動詞がある。 (例)oportet,decet,placet,lecet,taedet,piget,paenitet,pudet,interest等

    動詞的中性名詞

    第一変化の例 (属格)amandi (与格)amando (対格)amandum (奪格)amando ・意味 属格形は、名詞と一緒だと、「〜するための…」の意を示す。 形容詞と一緒だと、「〜するのが…」の意を示す。 causa等と一緒だと、「〜するため」の意を示す。 与格 形容詞とともに用いて、「〜するのに…だ」「〜するのは…だ」を示す。 対格 adとともに用いて、「〜するため」の意を示す。 奪格 「〜することによって」という手段、方法を示す。 前置詞とともに用いられる場合もあるが、その時の意味はまちまち。

    動詞的形容詞

    第一変化の例 amandus,a,um 尋常ならざる面倒くさい用法 動詞的形容詞が修飾する名詞をA、動詞的形容詞の目的語をBとする。 A (動詞的形容詞) B まず、動詞的形容詞はAを修飾しているので、属格になっている。 Bの格を属格にする。 そして、動詞的形容詞の性数を、Bにあわせる。 (例)Soli boni viri sunt apti dirigendis aliis. (ただ善良な人間たちだけが、他人を指導するのに適している) allisの複数属格にあわせて、動詞的形容詞のdirigendisも、複数属格になっている。 ※ 動詞的形容詞を使わなければいけない時 対格の付いた動詞的中性名詞が、対格か与格の時は動詞的形容詞を使わなければいけない。 ×Ille venit ad videndum urbem. ○Ille venit ad vivendam urbem.

    義務をあらわす動詞的形容詞

    自動詞(目的語の略された他動詞も)の動詞的形容詞の単数中性主格にestをつけると、 「〜しなければならない」の意を表す。 他動詞だと、「〜されなければならない」の意を表す。 ※ 過去形 動詞を辞書で引くと、四つの形が載っている。 amo,are,avi,atum v.a. 愛する amoは基本形で、一人称単数形。 areというのは、不定法amareの語尾のことで、 atumというのは、目的分詞の語尾。 そして、aviというのが、動詞の過去形の語尾。 amavi amavisti amavit amavimus amavistis amaverunt のように人称変化する。 受動形は、過去分詞+esse動詞を使う。 過去分詞は主語の性数と一致、人称変化はesseで行う。 amatus,a,um sum amatus,a,um es amatus,a,um est amatus,a,um sumus amatus,a,um estis amatus,a,um sunt

    半過去

    半過去は過去における習慣、状態、継続する動作を表す。 「〜したものだった」「〜し続けていた」のように。 amabam amabas amabat amabamus amabatis amabant のように変化する。 第四変化は、 audiebam audiebas audiebat audiebamus audiebatis audiebant のように変化する。 受動形は、 amabar amabaris amabatur amabamur amabamini amabantr となる。 要は、能動形受動形ともに、間に'ba'が入るだけで、変化自体は同じ。 ○未来

  • 第一変化 amabo amabis amabit amabimus amabitis amabunt
  • 第二変化 monebo monebis monebit monebimus monebitis monebunt
  • 第三変化 legiam leges lget legemus legetis legent
  • 第四変化 audiam audies audiet audiemus audietis audient 第一変化と第二変化は語尾がboやbiになり、 第三変化と第四変化は第二変化っぽくなるのが特徴。
  • 受動形は、以下の通り。

  • 第一変化 amabor amaberis amabitur amabimur amabimini amabuntur
  • 第二変化 monebor moneberis monebitur monebimur monebimini monebuntur
  • 第三変化 legar legeris legetur legemur legemini legentur
  • 第四変化 audiar audieris audietur audiemur audiemini audientur 受動形は、 amarer amareris amaretur amaremur amaremini amarentur
  • 大過去

    主節と従属節で成り立っている文で、時間に前後関係があるような時に使われる。 過去形+esseの半過去 で大過去となる。 一方の節で過去形が使われている時、 もう一方の節がそれよりも過去である時に、大過去を用いる。 amaveram amaveras amaverat amaveramus amaveratis amaverant 受動形は、過去分詞 esseの半過去となる。 amatus,a,um eram amatus,a,um eras amatus,a,um etat amati,ae,a eramus amati,ae,a eratis amati,ae,a erant

    先立未来

    一方の節で未来形が使われている時、もう一方の節での行動が完了しているのを示したい時に用いる。 過去形+esseの未来形 で先立未来となる。 amavero amaveris amaverit amaverimus amaveritis amaverint 受動形は、 amatus,a,um ero amatus,a,um eris amatus,a,um erit amati,ae,a erimus amati,ae,a eritis amati,ae,a erunt となる。

    不定法の過去

    能動形なら、過去形に-isseをつける。 (例)amavisse,habuisse 受動形なら、過去分詞の対格とesseをあわせてつくられる。 (例)amatum,am,um esse ○不定法の未来 能動形なら、未来分詞の対格+esse。 (例)amaturum,am,um esse 受動形なら、未来分詞の対格+iri。 (例)amaturum,am,um iri ○接続法現在 接続法現在の変化は次の通り。

  • 第一変化 amem ames amet amemus ametis ament
  • 第二変化 habeam habeas habeat habeamus habeatis habeant
  • 第三変化 dicam dicas dicat dicamus dicatis dicant
  • 第四変化 audiam audias audiat audiamus audiatis audiant 接続法の示す意味は、勧誘、丁寧な命令、可能性のある願望、禁止である。
  • 接続法半過去

    接続法半過去の能動形は、不定法現在の語尾にm,s,t,mus,tis,ntをつければよい。 受動形はr,ris,tur,mur,mini,nturをつければよい。 (例)amarem,amares,amaret,amaremus,amaretis,amarent amarer,amareris,amaretur,amaremur,amaremini,amarentur 接続法の主要な役割は、従属を示すことなので、 接続法は従属文の中でよく使われる。 主文が現在、未来、先立未来なら、従属文は接続法現在、 主文が過去、半過去、大過去なら、従属分は接続法過去を使う。 ○他の接続法の用法 願望、勧め、忠告、命令などを表す動詞は、ut+接続法を用いることがある。 ○接続法過去 接続法過去は、動詞の過去形の語尾のiをerim,eris,erit,erimus,eritis,erintに変える。 (例)amaerim,amaeris,amaerit,amaerimus,amaeritis,amaerint (単数一人称以外は先立未来と一緒) 受動形は、過去分詞+esse動詞の接続法。 (例)amatus sim ○接続法大過去 不定法過去の能動形+m,s,t,mus,tis,nt。 (例) amavissem amavisses amavisset amavissemus amavissetis amavissent 受動形は、過去分詞にesse動詞の半過去をあわせる。 (例)amatus eram

    間接疑問

    間接疑問の中の動詞は、必ず接続法を用いる。 ラテン語は主文と従属文の時制関係は、厳密に規定されている。 主文の時制が、現在、未来、先立未来のように、今か、それより未来の時を第一時称、(または第一義的時称) 過去、半過去、大過去のように、今よりも過去の時を第二時称という。 そして時制関係の決定に重要なのは、従属文の時間が、主文より前か、同時か、後かということである。

  • 第一時称 前時;接続法過去 同時;接続法現在 後時;未来分詞+sis
  • 第二時称 前時;接続法大過去 同時;接続法半過去 後時;未来分詞+esses (※接続法には未来形がないので、)
  • cumについて

    cumは、第一時称の場合は直説法を使うが、第二時称の場合は接続法を使う。

    条件文

    「もし〜したなら」を示す従属文は、Siを使う。 「もし〜しなかったなら」を示すなら、Nisiを使う。 事実にもとづく仮定を表すなら、動詞は直説法を使えばいいが、 可能性のある仮定を表す条件文なら、接続法を用いる。 条件文の時制が現在なら、接続法現在、過去なら現在法過去。 また、事実に反する仮定を表す場合、接続法の半過去、大過去を使う。 その場合、条件文の時制が現在なら、接続法半過去。過去なら接続法大過去。

    譲歩文

    quamquam+直説法

    「であるけれど」「にも関わらず」のような意味を表す。 実際の事実に基づく場合に使われる。

    quamvis,cum,etsi+接続法

    可能性のある場合で、現在なら従属文は接続法現在、過去なら従属文は接続法過去。 不可能な場合で、現在なら主文も従属文も接続法半過去、過去なら主文も従属文も接続法大過去。

    結果文

    ut+接続法で、「〜するほど」の意を表す。 ut non+接続法、あるいはquin+接続法で「〜しないほど」の意。 結果文を使う時、主文には、「そんなに」「それほど」を示す形容詞や副詞が使われる。ita,tam,sic,adeoなどの副詞、talis,tantusなどの形容詞を使う。

    (了)