いまさらきけない欧州債務問題
なんかユーロ危機とか話題になってるけど、微妙に乗り遅れた人とか、 経済の知識があまりない人とかのため、欧州債務問題のわかりやすい解説を書こうと思います。 (僕のブログでも散々扱ってるけど、アクセス解析見る限り、驚くほど読まれてない。) PIGS問題、ギリシャ問題、第二のリーマンショック、色んな名前で呼ばれてますね。 欧州債務問題というのは、一体どういう問題なのでしょうか。
ことの発端はリーマンショックまでさかのぼる
2008年9月に起こったリーマンショックはアメリカ発の金融危機ですが、 金融の中心だったアメリカの金融危機ということで、日本のみならず、世界中が影響を受けました。 先進国も途上国も、どの国の株価も大体リーマンショックを受けて急落しました。 ヨーロッパ諸国も例外ではありませんでした。 もともとヨーロッパ、特に南欧諸国は、経済が停滞していて、 そのくせ「揺りかごから墓場」式の手厚い社会保障が充実していたので、 多くの国で債務残高(今まで発行した国債の積もり積もった額)が高くなっていました。
リーマンショックの時に、多くの国で不況に対処するため、財政出動が行われました。 日本でも麻生総理がドヤ顔で「10兆円規模の財政出動をします」と発表してましたね。 規模は違えど、どこの国も同じような政策をとりました。 この政策のおかげで、リーマンショックによる経済後退は何とか回復して行きました。 しかし、問題はその後でした。
ギリシャの国家ぐるみの粉飾会計
2009年10月、ギリシャで政権交代が起こって、パパンドレウ政権が誕生しました。
その際に、前政権が発表していた「財政赤字はGDP比4%程度」とする内容が、嘘であったことが明らかになりました。 実際は4%どころか12.5%でした。 (これは後に13.6%に修正されます) 元々ギリシャは左派政権によって国民の人気取り的な政策が行われてて、 かなり放漫な国債乱発が行われていたようですが、それがリーマンショックによる税収の落ち込みで、 財政赤字が膨らんでしまったようです。
結構な額ごまかしていたので、投資家のショックは大きかったようです。
デフォルトとは何か?
これをうけて、ギリシャ国債デフォルトの危険性が囁かれはじめました。 デフォルトとは何でしょうか?
個人がお金を返せなくなると、自己破産という手続きをとります。 自己破産すると、それまでいくら借金持っていてもゼロになります。 (そのかわり一生住宅ローンは組めないし、クレッジトカードもつくれませんが) 同じように、国家も財政が行き詰って、借金が返せなくなると、デフォルト(債務不履行)を宣言して、 「ごめんやっぱ返せそうにないわ」 ということで、借金を帳消しにします。
「そんなことありあえるのかよ?」と思うかもしれませんが、過去にいくつか例があります。 もちろん日本はまだやったことはありません。 普通発展途上国とか、政情不安定国とかで起こります。 アルゼンチン、ロシアのデフォルトが代表的です。 二つとも結構有名な国ですが、過去デフォルトを宣言した経験国です。 言うまでもないですが、デフォルトが起こると経済は混乱します。 国債は通常安全資産とみなされて投資されていますから、 それがデフォルトとなると、「石橋を叩いて渡ってたら底が抜けた」くらいの衝撃度で、マーケットに広がります。 買ってた人は大損なのですが、デフォルトを宣言した国もひどい混乱に陥ります。 デフォルト宣言後の数年というのは、国際社会から総スカンを食らうことになるでしょう。
ギリシャ国債もこのままではデフォルトするのではないか、ということで、 粉飾会計発覚後、信用はガタ落ちしました。 うっかりギリシャ国債を持っていた金融機関は、 「やべえデフォルトになる」ということで、一斉に国債を売り始めます。
国債というのは、株と違って、償還期間というものがあります。 たとえば10年物国債であれば、最初政府が売りだした時に買った保有者は、 10年持ったら、たとえば1%の年利であれば、毎年1%の利子を受け取り、 10年後満期が来て、元本が返ってくる、という流れになります。 この元本を返すことを「償還」と言います。 償還まで待てない時は、一応債券市場というのがあって、 (株と比べるとかなり規模・流動性は小さいですが) そこで売却することもできます。 ギリシャ国債は一斉に売られ始めました。
ここがちょっとわかりづらい所なんですが、国債は信用が落ちて売られると「利回り」が上がります。 株なんかは売り浴びせられると株価は下がりますが、 国債の場合、売り浴びせられると、同じように「債券価格」が下落します。 額面100ユーロで、利子1%のギリシャ国債があったとしましょう。 債券市場ではギリシャやべーよというので、買い手がつかず、100ユーロではとても売れません。 そこで100ユーロが90ユーロに、90ユーロが80ユーロに……とどんどん下落していきます。 でも、利子1%は額面の100ユーロに対してつくので、1年で1ユーロの利子というのは、債券価格が下がっても変わりません。 投資家から見るとどんどん「お得」になっていきます。 利子率とはまた別に、投資費用に対するリターンを「利回り」と言います。 計算はややこしいんで、慣れないうちは難しい概念だと思いますが、 要するに国債を買った時のトータルの損益だと思ってください。
テキトーな例を出せば、100ユーロのギリシャ1年物国債(利子率5%)を、半額の50ユーロで買いました。 となると、償還が来た時、105ユーロ返ってくる訳ですから、 「利回り」は110%となります。 (投資した50ユーロが2.1倍で、105ユーロになったので、 「110%の利子」がついたようなものです。すごいですね!)
このように「債券価格」が下がると、固定された利子の国債が安く買えるので、「利回り」は上がるのです。 「普通の国債」であれば、ある程度割安感が出てくれば、誰か買い手があらわれるんですが、 ギリシャ国債の場合はデフォルト確率が相当高まっているので、債券価格は地の底まで落ちていきます。
ギリシャ国債は、もはや国をあげたギャグみたいになっています。
格付け会社がトドメを刺す
格付け会社、というのをご存知でしょうか。 何をしているかというと、国債や社債の信頼性を、ABCで格付けしています。 代表的な会社は、
- ムーディーズ
- S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)
- フィッチ
の三社です。 三社ともアメリカの会社です。 フィッチというのは若干存在感が薄いので、ほぼムーディーズとS&Pの二強だと考えていいと思います。
彼らの評価が合っているか、というのは非常にあやしい所が多々あって、 リーマンショックの一因にもなった存在でもあるのですが、 それでも批判をあびつつも、現在までそれなりの信頼性を保って営業しています。 2009年12月S&Pは、ギリシャの長期格付け「A-」を「BBB+」(トリプルビー)に1段階引き下げました。 2010年4月27日には鬼の3段階引き下げを実行。「CCC」(トリプルシー)になりました。 同年6月14日、ムーディーズが満を持して4段階格下げを実行。「A3」から「Ba1」に格下げ。 (S&Pとムーディーズの格付け方式は若干違うので、詳しく知りたい人は、信用格付けを参照)
市場不安は最高潮に達しました。
重い腰を上げたEU・ECB
当初はギリシャに対して冷ややかな目を送っていたEU・ECBですが、 ギリシャ問題が過熱していって、株価などにも影響が出るようになると、 さすがに傍観を決め込むわけにもいかず、ECBが国債の買い入れを行ったり、 EUがギリシャに対して融資を行うことを決めました。 一番最初に資金援助を発表したのが、2010年6月ですが、その後も現在に至るまで、何度か融資が行われました。
しかし収まらない危機〜日本とギリシャの違い〜
しかし危機はおさまりませんでした。 EUは資金援助の交換条件として、ギリシャに緊縮財政を求めました。 それがただでさえ落ち込んでいたギリシャ経済を更に落ち込ませて、マイナス成長に陥っています。 元々ギリシャという国は、農業と観光が主な産業で、経済規模はさほど大きくありません。 だから「融資と緊縮財政」というEUの援助策は、「その場しのぎ」程度にはなるでしょうが、 中長期的にギリシャが独り立ちしてやっていける状態になる方策ではありません。
よくギリシャ問題を語っていると、「日本も人事ではない」とか言い出す方がいますが、 (この前テレビでも見ました。あの程度のコメントで金がもらえるって素晴らしい職業ですね) 日本とギリシャの状況の一番の違いはここです。 経済規模が段違いなのです。 国家を人にたとえるならば、 コンビニアルバイトで年収200万円のフリーターが、200万円の借金をしているのがギリシャで、 一流企業の社長で年収1億円の大富豪が、2億円の借金をしているのが日本なのです。 どっちも借金しすぎですけど、どちらかといえば、大富豪の借金の方が返ってくる見込みがありそうな気がしませんか?((それと外国人保有率の違いも大きいです。いずれにせよ日本とギリシャを比べるのはナンセンスですね。比べるならイタリア辺りが近いんじゃないかと思います))
PIIGS問題〜やばいのはギリシャだけじゃなかった〜
2010年11月、アイルランドがEUとIMFに7,500億€(当時のレートで約85兆円)もの資金援助を要請しました。
アイルランドというのは、イングランドの隣の小さな島です。 ややこしいですが、アイ「ス」ランドとはまた別の国です。 この国は不動産バブルがはじけて、それまで放漫貸付を行っていた金融機関が一気に負債をしょいこむことになり、 政府はそれを公金を使って救済する方針を打ち出したため、首が回らなくなってしまったのです。 当然格下げをくらって、アイルランド国債も相当な危険水域に達しました。 ギリシャちゃんに仲間が出来ました。
更に仲間は増えていきます。 2011年4月、ポルトガルがEUとIMFから800億ユーロの資金援助を要請。 これで三番目の資金援助が必要な国が出てきたことになります。 また、このアイルランド、ポルトガルの体たらくで、 格づけ会社各社は両国の国債をジャンク級(投資不適格級)に格下げしました。
もはやことここに至って、欧州債務問題は「ギリシャ問題」と呼べる規模のものではなくなってきました。 そこで誰がつけたか知りませんが、 PIIGS という、実に上手い名前があるので、PIIGS問題と呼ばれることが多いです。
- P…ポルトガル(Portugal)
- I…アイルランド(Ireland)
- I…イタリア(Italy)
- G…ギリシャ(Greece)
- S…スペイン(Spain)
Iは一つの時と二つの時がありますが、イタリアを入れるか入れないかで違います。 債務危機に陥っている国の頭文字をとって、PIGS(豚野郎)という侮蔑的なニュアンスを出してるんですね。
(※PIGSのチャートがかつてGoogleのサービス使って埋めこまれていました)
PIGS諸国の、債務残高のGDP比をあらわしたチャートです。 なんか見てるだけで苦笑してしまいそうなチャートですが、ひどい国々ですよ全く! 借金とは無縁で、こつこつ真面目に働いて、国際社会からの信頼も高い日本に産まれて本当に良かった! 心からそう思う! ん?
(※日本のチャートがかつてGoogleのサービス使って埋めこまれていました)
おやおや? PIIGSがかすんで見えるぞ? とんでもない国があるもんだなあ全く! 日本をみならえ!と言いたい!
なぜスペインとイタリアがやばいのか
余談はさておくとして、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルの財政が資金援助を必要とするほど 危険な状態であったから、馬鹿にされても「残念だが当然」なのですが、 スペイン、イタリアがどうしてやばいのでしょうか。
この両国は、世界のGDPランキングでも上位に入る、経済大国です。 イタリアは8位、スペインは12位です。
ギリシャ、アイルランド、ポルトガルに比べれば、 今のところ資金援助は必要としてないし、財政的には段違いに安定しています。 だから本来同列に並べるのはおかしいのですが、 もしこの三カ国の危機がスペイン、イタリア程の経済規模を持った国に波及したら大変なことになるぞ、 という意味で、PIGSの中に加えられています。 実際この二ヶ国が財政危機に陥るようなことがあれば、ユーロ圏の危機は更に深刻になると思われます。
wikipediaによれば、ポルトガルの経済規模は、ちょうど埼玉県と同じ程度だそうです。 ギリシャ、アイルランドもそれより少し大きいくらいです。 これらの国のデフォルトと、イタリア・スペインのデフォルトでは、破壊力が段違いなんですね。 そしてイタリア、スペインの経済も、けして安定してはいないのです。
イタリア
イタリアは、GDPランキング十位以内の国では、日本に次ぐ財政赤字国です。 これがまず一番の懸念材料。 次が、政治でしょうか。 シルヴィオ・ベルルスコーニという人が首相をやってるんですが、 日本だったら首相の座を保ち続けていることは絶対にない人物です。 買春だの人種差別的失言だの、不祥事がざくざく出てきます。 これだけスキャンダル起こしてなんで政権維持できるのか不思議ですが、人の国のことはよくわかりません。
スペイン
スペインは、債務残高でいったらイタリアより随分マシです。 が、経済状態がすさまじく悪化しています。 この原因は、不動産バブルの崩壊です。 若年失業率は奇跡的な40%超えを達成。 債務残高は低いけれど、経済情勢が危険なので、国債もやや危険視されています。
EU、ECBの対応。そしてユーロ下落
広がり続ける欧州債務問題に対して、ECBやEUはどういう対応をしてきたかというと、 基本的には一貫して「融資と緊縮財政」という、「アメとムチ」的な対応でした。 しかしそれも限界に来つつあります。 ギリシャの首都、アテネではデモが頻発。 ギリシャへの融資は実に六度目となりましたが、 依然として財政再建のめどはたっていません。
痺れを切らしたように、ユーロは相当下落しています。
●ユーロドル(月足。以下同じ)
●ユーロ円
特に有効な決定打もなく、2009年10月の粉飾会計発覚から、 2011年9月25日現在まで、ずるずるともつれ込んだ欧州債務問題。 その大まかなまとめでした。
(了)