「イラク水滸伝」を読んだ

「イラク水滸伝」を読んだ。

Amazon.co.jp: イラク水滸伝 (文春e-book) eBook : 高野 秀行: 本

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この本、面白いとは聞いていて、実際面白かったんだけども、読んでて途中でよくわからなくなって、一度読み直した。

エピソードが書いてあるところは流れで読めるんだけど、要所要所で政治・民族・歴史・文化・地理・宗教などなかなか難読なところが出てくる。当初はそこは雰囲気で進めてたんだけども、後半に舟つくったのになぜか帰国してしまったところでいよいよ読めてなさすぎるなということで、頭から戻ることを決断した。

わからないところや気になったところは適宜調べながら読み進めると、より面白く読めた。

この記事は最初に感想書いて、次に調べたことを少しだけ書こうと思う。

感想

イラクといえば砂漠のイメージだが、実は湿地帯があるというのを著者の高野さんが聞きつけて、これは行くしかないということで、何度も訪問して、最終的には表紙にあるタラーデ(イラクの古代舟)をつくって、川を下るという内容。

現代冒険譚として面白く読めるんだけども、いかんせん中東情報が頭に入ってこない。イラクとイランさえどっちがどっちだっけってなるレベルなので、一節進めてまた何日も経ってからまた一節みたいな読み方だと途中で全くわからなくなってしまった。実際読み返して、改めて熟読してみても難しかった。

たとえばイラクとイランの酒事情も複雑で、イラクは民主主義政権で、酒を禁止する法律がないにも関わらず、酒の販売は民兵が取り締まっていて、流通していない(2023年に正式に禁酒法ができたらしい)。一方イランはイスラーム原理主義国家で、禁酒法があるが、実際は酒が流通している。

俺は何かを記憶するときに因果関係で覚えるタイプなので、「xxは民主主義国家なので、酒が禁じられていない」という覚え方をしたいのに、そうなっていないのが非常に厳しい。

作中でよく出てくる鯉の円盤焼き(サマッチ・マスグーフ)なんかは印象的なのでなんとなく覚えた。マスグーフ食べてみたくなって日本で食べられないか探したけど、そもそもイラク料理屋というジャンルがなさそうだった(単発のイベントはあったっぽい)。

あと読んでいて、「作者は何を目的にイラクに来たんだっけ?」となるときがあった。たぶん「タラーデで舟旅をしたい」というのが最終目的なんだけど、作中で明言されていない気がする(最終的には舟旅がスケールダウンして、川下りになる)。せっかくタラーデつくってもらったのに乗らずに帰国しちゃったり、途中でマーシュアラブ布の謎を追いはじめたり、展開についていけなくなったので、一度読み返したけど、そもそもが秩序だった計画旅行ではないので、その辺は説明があまりない。舟つくっただけで放置して帰ったのはビザの期限が迫っていたとか、なんかあったらしい。

Kindleのリストを見ると、高野さんの「恋するソマリア」を買っていて、読了扱いになっていたけど、チラッと読み返してみたら全然記憶がなかったので、流し読みにして終わったっぽい。流し読みだともったいないけど、ちゃんと読もうとすると、かなりカロリー使うなと思いました。

イラクも政治が安定したら行ってみたくはあるけども、政情安定することあんのかなあの辺。

ちなみに船頭の人の歌はYouTubeに動画があがっている。

イラクについて

本作の主な舞台はチバーイシュ(Chibayish)で、場所としては首都バグダッドの南東。Google Mapで見るとここ。

拡大するとこんな地形。湿地帯であるせいか、マップ上は水扱いになっているが、実際は水量によって陸地になる時期もあるようだ。

Google Mapにいくつか写真が投稿されているが、湿地帯という言葉から想起される、ジメジメした陰鬱な雰囲気と異なり、なかなか美しい光景が並んでいた。

イラクの現代史はフセイン政権の独裁とその崩壊が核となる。

なぜサダム・フセインがあれだけ強固な独裁体制を築けたのかは謎なんだけども、1979年から2003年の間、イラクは彼の独裁政権だった。政敵の粛清や個人崇拝の強要などは共産主義っぽいけど、別に共産主義ではなく、イスラム主義でもなかった。そして民主主義国家であったかというとそうでもなく、分類としては「汎アラブ主義」と呼ばれるイデオロギーだった。詳しく知らないが、社会主義に近い理論のようだ。

フセインは残酷な独裁者で、特に外交については大きな判断ミスを犯している。1980年に開始したイラン・イラク戦争は、イラン革命で隣国が混乱していた隙を突こうとしたところ、思ったよりも強固な反撃に遭い、8年間の長期戦となった。1990年のクウェート進行は論外だろう。

ただフセイン政権のすべてが失政だったというわけでもなく、イラクの近代化(インフラ整備・教育)や民族・宗教対立の抑制などは功績としてあげられる。また中東の国家にありがちなイスラム原理主義からも自由でいられた。また、フセインは優遇する勢力と弾圧する勢力をしっかり決めていて、少数派のスンニ派が優遇されていた。

2003年に「大量破壊兵器を保持している」という言いがかりで、アメリカ軍が侵攻した結果、フセイン政権はあっけなく崩壊した。2006年に死刑執行。2011年にアメリカ軍が撤退してからは、IS(イスラム国)の台頭なんかもあり、混乱の極みにあった。

今は少し落ち着いたのかなという感がある。

イランの方がガザ地区を巡って不穏だけど、これはよく調べてみたらイランが直接戦闘しているわけじゃないのか。でもハマスの支援もしているみたいなので、不穏であることには変わりない。仮にイスラエルとイランが全面戦争になったら、地理的にはイラクが挟まれてるけど、どうなるんだろう。イランがイスラエルにミサイル発射したって報道もあるけど、イラクの上空を飛んでミサイル撃ったってことなのかな。

(了)